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パナソニックから分離独立したカメラメーカーの成長戦略

i-PRO株式会社 代表取締役会長 兼 CEO中尾 真人

i-PROのプロフェッショナリズム

組織の改革には、組織設計や人事制度、人事システムといった「ハード」の改革だけでは十分ではありません。我々のミッションは、「社会の安心・安全を日々守っているプロフェッショナルのために全力を尽くす」ことです。こうしたお客様の考えや気持ちを理解するには、i-PROのメンバー一人ひとりが「プロフェッショナル」になる必要があります。

プロフェッショナルの語源は、医師によるギリシャの神々への“profess”(誓約)、「ヒポクラテスの誓い」だといわれています。そこには、知識を出し惜しむことなく分け与えること、性差や身分を問わないこと、患者のプライバシーをけっして漏らさないことなど、医療に従事するものの倫理と心構えが書かれていますが、傾聴すべきは「患者の利益を最優先に考える」ことの重要性です。同様に、ビジネスプロフェッショナルが第一に考えなければならないのは、お客様の利益にほかなりません。

プロフェッショナルの仕事とは、どのようなものでしょうか。i-PROでは、プロフェッショナルの仕事には4つの要素があると考えています。すなわち、①専門技能を突き詰めること、②リーダーシップを発揮すること、③サポートやアシストを行うこと、④専門技能を継承し、後進に伝えていくこと――です。これらのうち、ひとつの要素に特化し、その道を追求してもよいし、複数の要素を強化してもかまいません。その際、社員には、自分自身がどのようなプロフェッショナルを志向するのか、みずから考え、みずから研鑽することを奨励しています。

役割は違っても、これら4要素に共通して求められるのは、「自分の意思」で考え、行動すること、そして「周りからの評価」(360度評価)を謙虚に受け止めることです。これは、個人の裁量や自由度が保証されている一方、エゴイズムを戒め、他人への配慮や支援を忘れない節度と規律が求められることにほかなりません。人材の市場価値という考え方がありますが、i-PROが目指すのは、こうした市場価値の高いプロフェッショナル集団です。

プロフェッショナル集団を機動的に行動させるために、我々は「公平」という思想で人事制度の再設計に取り組んでいます。性差はもとより、年齢、国籍、人種などの違いは関係ありません。昨今、ダイバーシティ経営の必要性が叫ばれていますが、プロフェッショナル組織では当たり前のことであり、ミッションの前では、CEOの私であろうと、新入社員の若者であろうと、全員が同等です。同調圧力や階層意識による忖度などあってはならないのです。ですから、こうした忖度なき組織を担保するには、公平な人事制度の確立が不可欠なのです。

そのためには、日本の常識や慣行に挑戦するような改革を避けて通れません。たとえば、定年退職制度にもメスを入れました。パナソニック時代には、一定年齢になると自動的に役職を外れ、報酬も大幅に削減される、いわゆる役職定年制度がありました。日本では一般的な制度のひとつです。しかし、この仕組みは、プロフェッショナル組織の大原則「能力や意欲に応じて機会を与え、貢献に応じて報いる」に反します。こうした役職定年制度を改め、年齢に関係なく能力と意欲に応じて職級を決定し、貢献を評価して報酬を定める方式に変えました。そもそも定年制度のある先進国は日本だけです。

非正規雇用についても方針を変更しました。基本的に正社員と同等の能力と意欲があり、同等の貢献があるならば、社員の間に正規と非正規の差があるのは我々のプロフェッショナリズムに反すると考えたからです。これも実力主義というプロフェッショナル組織ならではの価値観を反映させたものです。

制度面だけでなく、意識面からも変革を促すため「i-PRO - Building the Future」(BtF)というプログラムを実施しています。所属やポジションに関係なく全員で議論する場の提供です。たとえば、i-PRO製品について語り合うオンライン座談会「I love i-PRO Products!」、キャリアや成長について学び合う「キャリア・自己成長について語り合う場」など、自然発生的なフォーラムが毎月開催されています。私も「戦略付箋の部屋」というフォーラムを主宰し、座談会を月1回開いて、私の戦略意図を社員に語っています。この戦略付箋の部屋は、私が若い頃、事業戦略を考えるために思いついたことを付箋に書いて、会議室の壁いっぱいに貼り付けた思い出が由来です。

このBtFの各フォーラムは、内容や表現の巧拙は問わず、「発言すること」が何より重要であり、参加者全員から感謝されます。職場以外でもこうしたポジティブな経験を重ねるなかで、能動的に行動することが当たり前になり、組織に一体感が醸成されていくに違いありません。

こうした場づくりのほかに、i-PRO全社や所属部門の目指す方向に向かって、自分の裁量を活かして主体的に貢献していく、こうしたプロフェッショナルのためのマネジメントシステムとして、「OKR」(Objectives and Key Results)を導入しました。インテルで開発され、グーグルなどの新興企業で大きな成果を上げていることから、近年注目が集まっています。OKRでは、ビジョンを実現するための「目標」(Objective)と、「目標」を達成するための具体的な基準や取り組みを示す「主要な成果」(Key Result)を設定します。i-PROでも、CEO以下、組織や個人が目標と主要な成果を掲げて、公開・共有しています(図表7「OKRとMBOの違い」)。

 

 

OKRは、従来のMBO(目標管理)とは似て非なるもので、業績評価や人事査定には用いません。「組織の目標を整合させる」という、本来のMBOの目的に立ち返るには、目標の達成率を評価に用いることはむしろ逆効果なのです。

i-PROでは、OKRは個人が自分自身を突き動かすためのツールであり、会社が個人をコントロールするためのものではないと考えています。ですから、OKRを実践するか否かについても、会社が強制することはなく、各部門や各人の判断に委ねています。もちろん、OKRを不要と考える部門や個人が、会社から注意や指導を受けることもありません。OKRを設定し、チャレンジングなゴールに向けて邁進するのも、OKRを利用せず自分流のやり方を選ぶのも、当人次第なのです。言い換えれば、プロフェッショナルである以上、OKRを設定するかどうかを含め、自分で考えて行動することが求められているのです。その行動や結果は、直接的・間接的に、周りからの評価に反映されることでしょう。すべては市場によって評価されるのです。

ここで、CEOである私の目標、すなわちi-PROのCorporate Objectivesを紹介します。

i-PRO Corporate Objective 1:
i-PROの売上げの80%は、2年前には発売されていなかった製品で構成されている。

i-PRO Corporate Objective 2:
i-PROの売上げの80%は、受注後3日以内に出荷できる製品で構成されている。

i-PRO Corporate Objective 3:
i-PRO Quality Management Systemで開発製造された製品は、Panasonic Quality Management System で開発製造された製品よりも品質瑕疵が少ない。

通常MBOなどで利用される売上げや利益といった指標は、あえて掲げていません。しかし、以上の目標が達成された暁には、i-PROは必ずや輝かしい業績を達成していることでしょう。これら3つの目標は、財務数値のためではなく、各部門、各人がいま取り組むべき課題を示し、能力を高めることを促すものです。例えて言えば、「競技会で優勝する」「コンテストで1位になる」ことが目標なのではなく、自己研鑽、自己鍛錬を日々重ねていくことこそが目標であると訴えているのです。こうしたたゆまぬ努力を重ねていれば、競技会やコンテストでもきっと好成績を収められるでしょう。もしかしたら一番になることも夢ではないかもしれません。

プロフェッショナルがその持てる力を発揮できる組織こそ、我々が目指すものです。CEOの使命とは、最終的に「人づくり」です。組織とメンバーに絶えず刺激を与え、メンバーの可能性を開花させ、その成長を後押しできれば、他社の追随を許さない卓越した企業になれると信じています。

 

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