パナソニックから分離独立したカメラメーカーの成長戦略
真のグローバルカンパニーへ
i-PROの戦略は、グローバル環境の中で実現されるべきものです。実際、海外売上高比率は6割にのぼり、主要な競合はグローバルメーカーです。以下では、グローバル競争に勝ち抜くための経営基盤について述べたいと思います。ここで言う経営基盤とは、新たな戦略を実行に移せる「脳神経系統」と「肉体」を指します。前者の脳神経系統とは財務に紐付けた情報系統であり、後者の肉体とは組織と人材です。
脳神経系統を支える基幹系情報システムは、パナソニックから引き継いだ旧システムを世界標準のERPパッケージに入れ替えています。移行作業にかける時間はわずか1年半としました。それゆえ、非常に多くの困難を伴うことになりますが、2022年9月末に完了しました。
我々がパナソニックの一事業部だった時代、グループ全体の総売上げ8兆円のほんの一部に貢献する存在にすぎませんでした。言い換えれば、i-PROそのものがパナソニック全体における原価要素のひとつだったといっても過言ではありません。ですから、財務会計についても、パナソニック全体に合わせた月次報告だけで問題なく、管理会計に要求される粒度もそれほど高くありませんでした。
しかし、独立してからは、会計業務に要求される時間も粒度も全く異なります。たとえば、製品ごとや顧客ごとの収益であり、個々の在庫水準や欠品の状況など、微に入り細をうがつ会計情報がリアルタイムに日々必要となります。
ですから、我々も世界標準の基幹系情報システムを導入し、会計業務の質とスピードを大幅に向上させる取り組みを進めています。質の向上という点では、グローバル・コストコントローラーを置いて、調達から製造→物流→在庫→販売に至るまでのバリューチェーンにまつわる諸経費、人件費、IT関連費など、職能に関するコスト効率を管理しています。スピードについては、各事業部が効率的・効果的に行動できるように、データウエアハウス(DWH)の構築やビジネスインテリジェンス(BI)の活用を推進しています。また、決裁ワークフローや経費管理もクラウドサービスを活用してより効率的に行えることを目指しています。
パナソニック時代には、伝統的に経理部門のスタッフが事業部門に派遣され、事業部門の会計業務をサポートしていました。i-PROでも、その伝統を踏襲し、「ファイナンスビジネスパートナー」という組織をCFO直下に置いています。ここのメンバーたちは、各事業部門のミーティングに出席して事業活動への理解を深めることで、財務データをより深く吟味し、リスクの兆候を発見して対策を促したり、戦略的機会を見出して行動を起こしたり、時には新規事業へのアドバイスやコンサルティングを提供したりします。
脳神経系統だけでなく、肉体の変革も並行して進めています。パナソニック時代には、伝統的な日本企業によく見られる、日本法人が事業の中枢を担い、国外の現地法人は「海外販売会社」という組織構造でした。そのせいで、海外販売会社の声は「その地域固有の情報」として軽んじられ、耳を傾けられることはありませんでした。日本語で入手できる情報と気心の知れた日本人同士の議論を重視するといった、組織に知らず知らずのうちに染み付いた慣習のせいで、業界構造にグローバルな変化が生じていることをすぐさま察知できなかった可能性は否めません。
こうした反省に基づき、組織構造について一から再考しました。「日本本社」と「海外販売会社」というかつての考え方を捨て、全世界で1300人強から成るi-PROをどのように構成するのが最適なのか、国境を越えて組織構成を見直しました。現在、監視カメラ事業では、世界の中心市場であるアメリカにグローバルの開発担当役員がおり、そこから日本の製品開発の指揮を執っています。医療用分光カメラ事業では、アメリカ在住のアメリカ人がビジネスリーダーを務め、各国の担当責任者は彼にレポートしています。
「組織は戦略に従う」という言葉があるように、グローバルレベルの戦略や戦術の変更・修正に応じて組織を機動的に再編できるように、CHROが最初に着手したのはグローバル共通の人事制度の構築です。その際、等級制度や評価制度、報酬制度をグローバルに運用するために、人事統合システムWorkdayを導入しました。これにより、国境を越えた組織でも、同じ等級基準を用いて設計し、同じ基準で人事評価を行うことが可能となっています。
i-PROでは、IT、財務、人的資本を担当する役員には、多様な価値観を受容し、世界標準を理解している人材を採用しています。脳神経系統や肉体の変革には、やはり痛みを伴いますが、事業に精通した旧パナソニックの人材と、世界標準の経営基盤を知る人材が協力しながら、改革を進めています。