各リーダーからのメッセージ

ガバナンス担当(長野 清司)

長野 清司【写真】
ガバナンス担当

Chief Legal Officer(CLO)

長野 清司

ガバナンスの基本方針・体制・情報開示アプローチ

Q まず、i-PROにおけるコーポレートガバナンス全体像について教えてください。未上場企業でありながらグローバル展開する中で、どのように透明性と説明責任を担保しているのでしょうか。

A i-PROは「迅速かつ透明性の高い経営」を実現するため、必要な企業統治システムを構築することを基本方針としています。具体的には、経営の意思決定と監督を担う取締役会を中心に、社外取締役を含む監査等委員会を設置し、経営のチェックアンドバランスを効かせています。社外取締役には独立した有識者が就任しており、第三者の視点から経営に参画していただいています。また、代表取締役の直下に内部監査部門を置き、業務プロセスの適正性や内部統制の有効性を定期的に検証しています。未上場ではありますが、上場企業と同等レベルのガバナンス体制を自主的に整備することで、投資家や取引先から求められる透明性・説明責任に応えているのです。

Q 具体的な内部統制やコンプライアンス体制についても伺います。i-PROではどのような行動規範や制度を導入し、社員への教育を行っていますか?

A i-PROにはグローバルで適用される「i-PRO Code of Conduct(企業行動規範)」があります。これは事業活動で遵守すべき倫理・法令遵守の基準を定めたもので、国連グローバル・コンパクト(UNGC)の10原則(人権・労働・環境・腐敗防止)とも整合しています。私たちは2023年6月にUNGCに署名し、この行動規範を策定することで国際原則に則った企業倫理の実践を内外に約束しました。行動規範の内容は人権尊重や環境配慮、労働基準の遵守から、競争法や贈収賄防止まで多岐にわたります。全社員には入社時研修や定期的なeラーニングを通じてこの行動規範を周知徹底し、ケーススタディを交えたコンプライアンス教育を実施しています。

また、内部通報制度も整備しています。社員が社内規程や法令違反行為を発見した際に匿名で報告・相談できる窓口を社内外に設置し、寄せられた通報には調査の上で迅速に是正措置を講じます。通報者や協力者への不利益取り扱いを禁じ、秘密保持も徹底しています。この制度は人権や環境に関する相談にも対応しており、例えば環境方針や人権方針にも同様のホットライン設置と報復禁止の一文を明記しています。社員一人ひとりが安心して声を上げられる風土を築くことで、違反の未然防止と早期発見に努めています。

Q セキュリティ製品メーカーとして、製品の品質や安全性リスクへの対応も重要と思います。ガバナンスの中核に品質・プロダクトセキュリティ・情報管理をどう位置付けていますか?

A おっしゃる通り、当社のガバナンスにおいてプロダクト品質・セキュリティ管理は最重要リスク領域の一つです。i-PROは60年以上にわたり培った技術力を背景に高品質な映像機器を提供してきました。独立後は製品ラインアップ数が飛躍的に増加し、AI企業との協業も進めるなど技術革新のスピードが上がっています。こうした中でも「Quality drives everything we do(品質は全てに優先する)」との信念のもと、社内の品質マネジメントシステムを強化し続けています。具体的には、自社基準による徹底的な品質テスト体制と、出荷後の不具合フィードバックを次製品に活かすPDCAを回しています。さらに、情報セキュリティとサイバー対策も経営課題です。当社はISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメント)認証を取得し、専門部署を中心に社内システムの多層防御や24時間体制の監視を行っています。万一のインシデント発生時には即座に危機対応チームを立ち上げ、被害拡大抑止と原因究明にあたる体制です。

製品セキュリティについても、ハード・ソフト両面でセキュリティバイデザインを徹底しています。開発段階から最新の暗号化技術や脆弱性対策を組み込み、リリース後も定期的なファームウェアアップデートで安全性を維持します。自社製品とサービスをサイバー攻撃から守ることは重要事項との認識で、製品ライフサイクル全体にセキュリティ対策を実装しています。お客様の大切な映像データを扱う責任ある企業として、情報管理・品質保証・セキュリティ確保をガバナンスの根幹に据えているのです。

i-PROならではの特徴的取り組み:AI倫理とAIガバナンス

Q 続いて、AI技術活用に関連するガバナンスについて伺います。AI搭載の監視カメラ等が増える中、ガバナンス担当として認識している主なリスクと、その対応方針を教えてください。

A AIの利活用に伴うリスクとして、私は主に3つを重視しています。一つはAIによるバイアス(偏り)の問題です。顔認識や行動検知のアルゴリズムが学習データの偏りから人種や性別による差別的な誤判定を生む可能性があります。一つは誤認識・誤検知のリスクです。AIの精度や限界によって、本来検知すべき異常を見逃したり、逆に無害なものを誤って警報として検知したりするケースが考えられます。セキュリティ用途では“False Negative/False Positive”どちらも社会に与える影響が大きいため、技術的な精度向上とリスク評価が不可欠です。一つはプライバシー侵害の懸念です。AIカメラで収集される映像データには個人情報が含まれ得るため、不適切な利用や管理不備によって個人のプライバシーや人権を侵害してしまうリスクがあります。特に顔認証技術などは扱いを誤れば監視社会につながりかねず、慎重な対応が求められます。

これらのリスクに対し、i-PROでは「責任あるAI開発・利用」を掲げて包括的なガバナンス体制を構築しました。まず2023年12月、社内でAI技術を扱う際の指針となる「i-PRO AI倫理原則」を制定しました。ここでは人間の尊厳やプライバシーの尊重、公平性、説明責任などAIに関する倫理基準を明文化しています。CTO直轄の横断組織として「i-PRO AI倫理委員会」を設置しました。業界に先駆けて社内に専任のAI倫理審議機関を設けた形ですが、その背景には「AIの社会影響が重大である以上、社内にしっかりブレーキ役を置こう」という経営判断がありました。委員会は法務・品質保証・事業企画などと密接に連携し、AIプロジェクトに内在する倫理的課題やリスクについて議論・提言を行っています。具体的な役割としては、AI開発プロジェクトの倫理チェックプロセスの構築・運用支援、リスクの特定と是正策の審査、そして社員へのAI倫理教育計画と実施といったものです。すでにAIアルゴリズムについてはリリース前にこの委員会によるチェックを受けるフローを導入しており、偏り評価やプライバシー影響評価を行った上で改良を加える仕組みが動き始めています。

長野 清司 インタビュー写真

Q 業界に先駆けてAI倫理原則や委員会を立ち上げたのはなぜでしょうか?また、その実務への組み込み方を教えてください。

A 先ほど申し上げたリスクへの危機感が一番の動機ですが、もう一つは法規制の動向です。例えば、欧州で包括的なAI規制法である「EU AI規則(AI Act)」が2024年5月に成立するなど、グローバルでAIガバナンスの厳格化が進んでいます。i-PROの製品は世界中で使われますから、各国・地域の新たな規制要件を先取りして体制を整える必要があります。幸い当社はエッジAI技術で先行してきたため知見も蓄積しており、「業界のリーディングカンパニーとして倫理面でも主導的な役割を果たそう」というトップの強い意志で早期に枠組みを構築しました。AI倫理委員会の発足と同時に、AI開発現場では倫理チェックリストの運用を開始しています。

Q AIガバナンスの国際規格であるISO/IEC 42001についても伺います。i-PROはこの認証を取得されたと伺いましたが、その意義と社内外にもたらす効果は何でしょうか?

A はい、当社は2025年5月にISO/IEC 42001の認証を取得しました。ISO/IEC 42001は人工知能マネジメントシステム(AIMS)の国際標準規格で、AIの設計・開発・運用におけるリスク管理や透明性・説明責任のフレームワークを定めたものです。私たちはこの認証を映像セキュリティ業界として世界で初めて取得しています。認証取得までには社内の体制整備に相当の労力を要しましたが、AIガバナンスに関する社内規程類の整備や運用プロセスの文書化を進めました。このISO認証を得た意義は大きく2点あります。一つは社内プロセスの高度化です。第三者認証のプロセスを通じて弱点を洗い出し、PDCAが回るマネジメントシステムを構築できました。AIリスクアセスメント手順や教育計画も標準化され、今後新たなAIプロジェクトが立ち上がっても社内で統制が利く仕組みが整いました。もう一つは対外的な信頼向上です。ISO/IEC 42001はまだ取得企業が少ない新しい規格ですが、それだけに先行取得したことは「i-PROはAIを適切に管理できる企業である」という強いメッセージになります。セキュリティカメラは社会インフラを支える製品ですので、AIについても品質保証の国際認証を持つことが選ばれる条件の一つになりつつあります。今後、海外の入札案件などでもISO 42001認証保持が優位性になると期待しています。

長野 清司 インタビュー写真

今後のガバナンス戦略と中長期的展望

Q i-PRO独立から現在までのガバナンスの進化を振り返りたいと思います。2019年にパナソニックから独立して以降、体制整備や企業文化の変化が現在の経営にどう生きているでしょうか?

A 2019年の独立当初は、正直なところ、ガバナンス面では親会社の仕組みをほぼそのまま引き継ぎつつ走り出した形でした。しかし、独立してグローバルにもビジネスの展開が加速する中で「自社にふさわしい統治モデルを作ろう」という機運が高まり、数年前から社内改革を本格化させました。まず取締役会については、独立社外取締役や外国籍の取締役を選任して多様な視点を取り入れています。現在では取締役12名中、過半数が非常勤の社外取締役です。取締役12名のうち4名は監査等委員である取締役です。これらの社外取締役からは財務戦略やM&Aの知見を、外国籍の取締役からはグローバル市場の視点を得るなど、経営陣の議論の質が格段に向上しています。また組織文化の面でも、独立当初は前例踏襲や属人的な意思決定が残っていましたが、ガバナンス強化のプロセスで「ルールと対話に基づく経営」へと変わってきました。例えば内部通報や提案を経営がオープンに議論し改善につなげるサイクルができたことで、現場も信頼を持って声を上げやすくなっています。

Q 投資家との関係では、どのようなガバナンス水準が求められていますか?またESG指標のモニタリングやエンゲージメント(対話)はどのように行っていますか?

A 当社の主要株主である投資ファンドはガバナンス重視の姿勢が非常に強いです。取締役会では経営陣に対し「それはガバナンス上どうか?」という問いがしばしば投げかけられますし、ESGの観点からも国際的なベストプラクティスを常に意識するよう求められます。具体的には、取締役会における重要事項の決議プロセスや内部監査の独立性確保、役員報酬の透明性など、上場企業さながらの水準を維持するよう助言を受けています。私としても将来的な株式公開の可能性は視野に入れており、今のうちからコーポレートガバナンス・コードの趣旨に沿った内部体制を整えるよう努めています。

ESG指標のモニタリングについては、先ほど触れたマテリアリティKPIを経営会議で四半期ごとにレビューしています。CO2排出量や労働安全指標、データプライバシー対応状況、女性管理職比率など項目ごとに進捗を確認し、目標乖離があれば担当部門長から原因と対策を報告させます。また年1回、主要株主とのミーティングでESGの取り組みを報告しフィードバックをいただいています。幸いUNGCへの参加やAI倫理の先進的な試みなどは高く評価いただいており、「非上場でここまでやるのは素晴らしい」というお言葉も頂戴しました。ステークホルダーとの対話では耳の痛い指摘も含め真摯に受け止め、改善を重ねることでガバナンス水準の継続的な向上を図っています。